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相続させる、という意味


遺言には特定の遺産を、特定の相続人に相続させる、という遺言事項が書かれることがあります。例えば、甲土地を子Xに相続させる、あるいは全遺産を配偶者Wに相続させるなどです。この「相続させる」という文面はさまざま見解が示されてきました。

 

学者先生の多くは、特定遺贈と解すべきとする見解が有力です。被相続人の死亡と同時に、当該特定遺産を特定の相続人に承継させるというものだからです。一方で、最高裁判所判決は「遺産分割の方法」とみつつ、遺産分割手続きを要することなく当然に当該「特定の遺産」が特定の相続人に移転するとしました(平成3年判決)

果たしてどう違うのでしょうか。結論は同一であるようにみえます。前段、最高裁は「遺産分割の方法」すなわち「遺産分割の全般的指針」を示したものといい、当然に「財産の処分」という意味は含まれない、と解しました。

 

判例の考えは、民法908条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続による承継させることも遺言で定めることを可能にするために外ならない、と具体的条文を根拠に説明しています。そして、「なんらの行為も要せずに、被相続人の死亡時(遺言の効力発生時)に直ちにその遺産が当該特定の相続人に承継される」としています。

 

実務上は判例の考えが優先されますので、特定の相続人に承継されることになると思われます。ただし、相続人全員の合意があれば遺言と異なる配分が起こりうることです。なぜなら、相続人全員の意思が優先するからです。